厳しい経営状態
クリスチャン・ラクロワは2002年、イタリアン・ブランドの老舗「エミリオ・プッチ」のクリエイティヴ・ディレクターに就任しました。
自分の名を冠したブランド以外でファッションを手掛けていくのは、これが初めてです。
エミリオ・プッチは、イタリアの陽気さが伝わってくるような明るくはっきりした色遣いで、クリスチャン・ラクロワのイメージとかなり合っていたように思います。
自らの名を冠したブランドで一躍有名になり、インテリアやアクセサリーデザインなど、彼はアイデアをあらゆる手法で形にし、成功してきたように見えました。
しかし実際のところ、ラクロワは創設以来、赤字に悩まされ続けていたのです。
1980年代には、既にオートクチュールのビジネスは成立しなくなっていました。
コストばかりがかかり、特定の顧客からの売上しか見込めません。
それよりは、大衆的なデザインで大量生産できるプレタポルテのほうが、ファッションビジネスでは成功しました。
ラクロワは、元からトレンドに則った作品作りには興味がなく、内にある創造性を妥協せずに形にしていきました。
その結果、「クリスチャン・ラクロワ」という名前ばかりが先行し、実際には決して利益を生まない企業になっていたのです。
デビューして15年あたりまでは、親会社「LVMH」も何も文句を言いませんでした。
しかし、ベルナール・アルノーは、やがて会社の売却を考えるようになります。